2026.02.13
重層的支援体制整備事業
2月12日、春日市紅葉ヶ丘西にあるNPO法人「小さな家 処々(ここ)」で開催されたおしゃべり交流会に参加してきました。
この会には、春日市で活動する介護事業者はもちろん、公的な制度に縛られない「自費サービス」などを展開するインフォーマルな事業者や春日市社会福協議会の方々が集まり、熱心な情報交換が定期的に行われています。
NPO法人 小さな家 処々(ここ)とは?
「誰もが、ありのままで、最期まで自分らしく暮らせる場所」をコンセプトに、春日市で地域に根ざした活動をされている団体です。制度の枠組みを超えて、人と人がつながる温かい居場所づくりを実践されています。
今回の交流会で特に注目が集まったのが、令和8年(2026年)4月から春日市でも本格始動する「重層的支援体制整備事業」についての話題でした。
なぜ今、この事業が必要なのか?
現代の福祉現場では、一人の利用者が抱える課題が非常に複雑化・複合化しています。
● 8050問題: 高齢の親が、ひきこもり状態の50代の子を支えている 。
● ヤングケアラー: 子どもが日常的に家族の介護を担っている 。
● ダブルケア: 育児と介護が同時に発生している 。
これまでの福祉は「高齢」「障がい」「子ども」といった属性ごとの縦割りだったため 、こうした複合的な課題を抱える世帯は「どこの窓口に行けばいいのか分からない」という制度の谷間に落ち込んでしまうリスクがありました 。
法改正によって「努力義務」へ
こうした背景から、平成29年の社会福祉法改正により、各市町村には「包括的な支援体制」を整備することが努力義務として課せられました 。重層的支援体制整備事業は、この包括的な支援体制を実現するための大きな「手段」の一つです 。
事業によって期待される効果
この事業が始まることで、以下のような変化が期待されています。
● 「断らない」相談支援: 属性や世代を問わず、どんな悩みもまずは受け止める 。
● 伴走型支援: 課題解決だけでなく、本人がその人らしく生きていく過程に寄り添い続ける 。
● 支援者を支える仕組み: 一人の担当者が抱え込むのではなく、多機関がチームを組んで「世帯丸ごと」を支えることで、現場の疲弊を防ぐ 。
福岡市や春日市の動き
近隣の自治体でも、すでに先進的な取り組みが始まっています。
● 福岡市: 各区役所に「ぬくもりの窓口」を設置し、分野を問わない総合相談体制を構築しています。
● 春日市: 令和8年4月からの本格スタートに向け、現在準備が進められています。春日市でも、既存の相談支援をさらに強化し、アウトリーチ(出向く支援)や参加支援を通じて、地域全体で住民を支える体制を目指しています 。
また、福岡県内では久留米市が「叶え合う支援」というキーワードで、専門職と住民が一緒になって本人の「願い」を叶えるユニークな地域づくりを展開しており、非常に参考になるモデルとなっています 。
現場のジレンマ:支援が必要なのに「同意」が取れない
重層的支援体制整備事業において、具体的な「支援計画」を作成するためには、原則として本人の同意が必要です。しかし、実際の現場では次のようなケースが少なくありません。
● セルフネグレクト(自己放任)状態で、外部の介入を強く拒む。
● 精神的な課題や過去のトラウマから、行政や専門職に不信感を抱いている。
● 家族間のトラブルが根深く、どこか一箇所でも支援を入れることを拒絶する。
周囲から見れば「このままでは立ち行かなくなる」と明らかであっても、本人の承諾が得られなければ、制度上の「計画」を立てて正式なサービスを導入することができない。これが、今の福祉現場における最大のジレンマの一つです 。
同意がなくても「つながり」を諦めない:支援会議の活用
一方で、現場ならではの難しさも議論されました。 重層的な支援計画を立てるには原則として本人の同意が必要ですが、セルフネグレクト(自己放任)などで同意が得られないまま孤立しているケースは少なくありません 。
こうした時は、多職種が集まる「支援会議」を開催します 。いきなり大きなサービスを入れるのではなく、ゴミ出しの手伝いや挨拶といった「小さな関わり」から始め、官民一体となって少しずつ信頼関係を築いていく粘り強いアプローチが求められます 。
これからの専門職により一層求められる「捉える力」
今回の交流会を通じて再認識したのは、私たち専門職には、自分の担当領域という「点」ではなく、世帯全体を「面」で捉える力がこれまで以上に求められているということです 。
社会の流れは今、単一の課題解決(制度・事業中心)から、対象者とその世帯が地域で普通に暮らしていくことを支える「本人・世帯中心」の支援へと大きく舵を切っています 。
こうした新しい体制を最大限に活かせるよう、私たち現場の人間も、属性や制度の壁を軽やかに越えた「連携の輪」を広げていきましょう 。