2026.07.14
訪問看護の管理者は何をする人?法制度で読み解く6つの役割
法制度で読み解く、管理という仕事の輪郭
「管理者、お願いできない?」
そう言われて引き受けたものの——何をすればいいのか、誰も教えてくれない。
訪問看護の管理者になる人の多くは、看護のプロとして現場を支えてきた人です。けれど「管理」は、看護とは別の技術です。マニュアルもなければ、研修も十分ではない。日々、目の前の書類とトラブルに追われるうちに、「管理者=雑務と責任を引き受ける人」になってしまう。
でも、本当はそうではありません。
この記事について
株式会社アイランドケアの常務取締役・山田真理子(レスピケアナース管理者/在宅看護専門看護師)は、同業の管理者・管理者候補に向けて「訪問看護ステーションの管理者の役割」というテーマで講演を行いました。
新シリーズ「訪問看護の管理者ノート」では、その内容をもとに、訪問看護の管理という仕事を全5回でお伝えします。第1回は、いちばん土台になる問い——管理者は、法制度上、何をする人と定められているのかです。
「何をすればいいか分からない」の答えは、実は法令の中に書かれています。
1. 迷ったら、まず法制度を読む
訪問看護ステーションの運営は、2つの制度の上に立っています。
- 医療保険:指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準(平成12年厚生省令第80号)
- 介護保険:指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)
管理者の資格や責務は、この省令に定められています。管理者は保健師・看護師(医療保険では助産師を含む)であること、原則として専らその職務に従事する常勤であること、そして訪問看護計画書・報告書の作成に関し、必要な指導および管理を行うこと。
条文は、たしかに読み慣れません。けれど「何をすべきか」が最も確実に書いてある場所は、やはり法令です。解説書を使ってもいいですし、厚生労働省のPDFをまとめてAI(NotebookLMなど)に読み込ませて調べる、という方法もあります。
「初めは読み慣れませんが、解説本やAIを活用して学習しましょう。法制度の理解は、管理者の出発点です」
── 山田真理子(レスピケアナース管理者/在宅看護専門看護師)
2. 法制度から読み取る、管理者の6つの役割
省令が管理者に求めているものを整理すると、大きく6つになります。
| 役割 | ひとことで言うと |
|---|---|
| ① 運営および業務の統括管理 | 事業所を一元的に把握し、動かす |
| ② 質と記録の管理 | 提供する看護の中身と、それを支える書類を守る |
| ③ 主治医・関係機関との連携 | 医師と地域をつなぐ調整役になる |
| ④ 安全管理とリスクマネジメント | 事故・苦情に、組織として備え、対応する |
| ⑤ 情報管理と守秘義務 | 利用者の情報を、多職種連携の中で守る |
| ⑥ 労務・安全衛生管理 | スタッフが安全に、健康に働ける環境をつくる |
① 運営および業務の統括管理
- 統括管理:従業者の管理、利用申込みの調整、業務の実施状況の把握を一元的に行う
- 指揮命令:適切なサービス提供のため、運営に関する事項を遵守させるべく、従業者に必要な指揮命令を行う
- 勤務体制の把握:24時間対応体制の構築、職員の勤務状況を明らかにする
「一元的に把握する」——これは、細かく口を出すという意味ではありません。事業所で今、何が起きているかを管理者が知らない状態をつくらない、ということです。
② 質と記録の管理
管理者は、計画書や報告書の作成において指導的な立場を担います。
- 訪問看護指示書・計画書・報告書・記録書の内容について助言・指導を行い、提供漏れがないよう管理する
- 計画書に沿った実施状況を把握し、必要に応じて看護師等へ指導する
そして書類管理は、そのまま法令遵守です。契約書、重要事項説明書、訪問看護指示書、ケアプラン、訪問看護計画書、訪問看護報告書、訪問看護記録書Ⅰ・Ⅱ。福岡市では、サービス提供の記録の保管期間は5年と定められています。
ただ、質の管理は書類だけの話ではありません。質の担保には、事業所の理念が欠かせない。私たちはどんな看護がしたいのか。それがスタッフの言動の根源になります。
そして質を上げる最も効果的な方法は、知識・技術の習得を土台にしたうえで、生活モデルで考える訓練をすることです。事例を深掘りし、リフレクション(内省)する。経験は、数ではなく、どれだけ深く振り返ったかで学びに変わります。
「質の管理は、訪看管理者の真骨頂で、いちばん面白い部分です」
── 山田真理子
なお、令和8年度の診療報酬改定では「包括型訪問看護療養費」が新設され、高齢者向け住まい等に併設・隣接するステーションが重症の利用者へ頻回訪問を行う場合の評価が整備されました。計画に沿った管理の重みは、制度の面からも増しています。
③ 主治医・関係機関との連携
- 主治医との緊密な連絡調整を図る
- 訪問看護計画書・報告書を定期的に主治医へ提出する体制を整える
加えて、法令に明記こそされていないものの、地域包括ケアの視点——地域の中で医療・介護のネットワークを形成する調整——が管理者に求められるようになってきています(機能強化型では実質的に必須です)。
④ 安全管理とリスクマネジメント
- 体制の構築:安全管理指針の整備、事故報告システムの構築、担当者の選任
- 再発防止:インシデント・アクシデント事例を収集し、検討結果を共有して再発防止策を講じる
- 虐待・ハラスメント対策:虐待防止委員会の構成メンバーとしての役割、職員をハラスメントから守る方針の明確化
事故対応の基本は、シンプルです。
- ✅ 利用者の安全確保に全力を尽くす
- ✅ うそをつかない
- ✅ 隠さない
- ✅ 責任転嫁しない
そして近年は、過失の有無が分からない段階でも、まず「共感の表明」——力を尽くしたにもかかわらず残念な結果になったことへの率直な気持ちを伝えること——の大切さが強調されています。
※このテーマは、第3回「苦情は『クレーマー』ではなく利用者からのメッセージ」、第4回「事故が起きたとき——『謝罪』と『共感の表明』」で詳しく扱います。
⑤ 情報管理と守秘義務
多職種が関わる訪問看護では、個人情報の適切な取扱いを徹底させることが管理者の責任です。
- 守秘義務の徹底:職員の雇用時・退職時に守秘義務の誓約を交わし、教育を行う
- ICT管理:クラウドやICT機器を使う場合、ID・パスワードの管理を徹底する
- 説明と同意:利用者・家族に個人情報の利用目的を説明し、同意を得る体制を構築する
⑥ 労務・安全衛生管理
- 法令遵守:労働基準法等を遵守し、就業規則の作成・周知、36協定の提出などを行う
- 健康管理:事業所の規模にかかわらず、職員に年1回以上の定期健康診断を実施する義務がある
- 衛生管理:感染予防のための備品(マスク・手袋等)の確保、設備・備品の衛生管理
「小さな事業所だから健康診断は……」は通用しません。ここは、知らなかったでは済まない領域です。
3. 管理は「面白い」
6つ並べると、責任の重さに目が行きます。けれど、順番を変えて見てみてください。
法制度が管理者に求めているのは、書類を整えることではなく、良い看護が続く仕組みをつくることです。統括管理も、連携も、安全管理も、労務管理も、すべては「スタッフが安心して、良い看護を提供できる状態」を保つためにあります。
管理は、雑務ではありません。看護の質を、組織として設計する仕事です。
なんだか難しい、引き受けたものの何をすれば——から、「そう捉えればいいのか、面白そう」へ。このシリーズが、その一歩になればと思います。
4. まとめ
- ✅ 管理者の役割は法制度に書かれている。迷ったらまず省令を読む
- ✅ 役割は大きく6つ:統括管理/質と記録/連携/安全管理/情報管理/労務・安全衛生
- ✅ 質の管理は理念から始まり、事例検討とリフレクションで育つ
- ✅ 事故対応の基本は「うそをつかない・隠さない・責任転嫁しない」
- ✅ 管理とは、良い看護が続く仕組みをつくる仕事である
次回予告|シリーズ「訪問看護の管理者ノート」第2回
「医学モデル」から「生活モデル」へ——新人訪問看護師が”ゆらぐ”理由
シリーズ「訪問看護の管理者ノート」(全5回)
- 訪問看護の管理者は何をする人?法制度で読み解く6つの役割(この記事)
- 「医学モデル」から「生活モデル」へ——新人訪問看護師が”ゆらぐ”理由
- 苦情は「クレーマー」ではなく利用者からのメッセージ
- 事故が起きたとき——「謝罪」と「共感の表明」
- 自己犠牲では続かない——「活私利他」という私たちの経営理念
訪問看護で働きたい方・管理業務に挑戦したい方へ
レスピケアナース(福岡市南区)は、在宅看護専門看護師が管理者を務める訪問看護ステーションです。人工呼吸器や難病など医療依存度の高い方の在宅療養を支えています。
現在、レスピケアナースでは「管理業務に挑戦したい方」を募集しています。管理は、ひとりで抱え込む仕事ではありません。この記事でお伝えした6つの役割を、先輩管理者と一緒に、ひとつずつ身につけていける環境があります。管理者の経験がない方も歓迎です。
見学・ご相談は、いつでもお気軽にどうぞ。
出典・参考資料
- 山田真理子「訪問看護ステーションの管理者の役割」(株式会社アイランドケア 常務取締役/在宅看護専門看護師)
- 厚生労働省「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準」(平成12年厚生省令第80号)
https://laws.e-gov.go.jp/law/412M50000100080 - 厚生労働省「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第37号)
https://laws.e-gov.go.jp/law/411M50000100037 - 全国訪問看護事業協会編『事故事例から学ぶ訪問看護の安全対策 第2版』日本看護協会出版会、2013年
- 松尾睦・築部卓郎『看護師・医師を育てる経験学習支援』医学書院、2023年
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html