2026.06.07

バイスティックの7原則とは|在宅介護・訪問看護の現場で「明日から使える」声かけと行動Tips

バイスティックの7原則とは、対人援助において信頼関係を築くための7つの行動原則です(F.P.バイステック『ケースワークの原則』に由来)。

利用者さんのご自宅という「生活の場」に一人で入っていく在宅の現場では、援助関係の質がそのままケアの質に直結します。レスピケアナース(訪問看護)とホームヘルプ卵(訪問介護)で日々ご利用者と向き合う私たちは、この7原則を「教科書の言葉」で終わらせず、実際の声かけや行動に落とし込んでいます。この記事では、各原則を在宅現場のNG例と「明日から使えるTips」に翻訳し、求職者の方・同業の支援者の方に向けてお届けします。


目次

  1. バイスティックの7原則 一覧表
  2. 第1原則:個別化
  3. 第2原則:意図的な感情表出
  4. 第3原則:統制された情緒的関与
  5. 第4原則:受容
  6. 第5原則:非審判的態度
  7. 第6原則:自己決定
  8. 第7原則:秘密保持
  9. 新人教育・OJTでの7原則の使い方(同業者向け)
  10. よくある質問(FAQ)
  11. この原則を体現する職場とは
  12. 出典・参考資料

バイスティックの7原則 一覧表

原則名 意味 在宅でのポイント
第1原則 個別化 一人ひとりを「同じ問題を持つ人」ではなく固有の個人として捉える 「前のお宅と同じやり方」を持ち込まない。住環境も生活歴も家ごとに違う
第2原則 意図的な感情表出 利用者が感情(不安・怒り・喜び)を自由に出せるように関わる 訪問時間内でも「話していい空気」を意図的につくる
第3原則 統制された情緒的関与 援助者は自分の感情を自覚し、コントロールして関わる 巻き込まれず、突き放さず。一人訪問だからこそ自己点検が要る
第4原則 受容 利用者をあるがままに受け止める(賛同とは異なる) 価値観や生活スタイルを「自宅のルール」として尊重する
第5原則 非審判的態度 良し悪しの評価・断罪をしない 「なぜできないのか」を責めず、背景を一緒に見る
第6原則 自己決定 利用者自身が決めることを尊重・支援する ケアの主役は利用者。選択肢を示し、決定を奪わない
第7原則 秘密保持 知り得た情報を守る ご家庭の事情・他事業所での会話を漏らさない。多職種共有も目的の範囲で

補足:原則名は訳書により表記が一部異なります(例:第6原則を「自己決定の原則」「利用者の自己決定」と表記)。本記事は誠信書房版の訳語に準拠しています。


第1原則:個別化

利用者を「高齢者」「認知症の人」とひとくくりにせず、固有の歴史と暮らしを持つ一人の個人として捉える原則です。 在宅では、家の数だけケアの形があります。

在宅現場のNG例

  • 前のお宅でうまくいった手順を、説明なくそのまま次のお宅に当てはめる。
  • 「このタイプの方はだいたいこう」という思い込みで、本人に確認せずケアを進める。
  • 申し送り資料の情報だけで判断し、実際の生活動線や本人の希望を見ようとしない。

明日から使える声かけ・行動Tips

  • 初回訪問では「いつもどんな順番で過ごされていますか?」と、その家の生活リズムから聞く。
  • 物の置き場所・呼ばれたい名前・大切にしている習慣をケア記録に「その人固有の情報」として残す。
  • 同じ疾患・同じ要介護度でも、支援計画は一軒ごとに見直す前提で、訪問前に情報を確認してから臨む。

第2原則:意図的な感情表出

利用者が不安・怒り・さびしさといった感情を安心して表現できるよう、援助者が意図的に場をつくる原則です。 感情を出せること自体が回復の支えになります。

在宅現場のNG例

  • 「時間がないので手短に」と、本人が話し出した不安をさえぎってケアだけ済ませる。
  • 「そんなこと気にしなくて大丈夫ですよ」と、感情そのものをなかったことにする。
  • 表情の曇りに気づいても、踏み込むのが面倒で天気の話に逃げる。

明日から使える声かけ・行動Tips

  • 「今日は何か気になることありますか?」とケアの合間に一拍おく。
  • 沈黙を埋めようとせず、相手が言葉を探す数秒を待つ。
  • バイタル測定などケアの合間の数分を「話していい時間」として意図的に確保し、聞き取った感情を記録に反映する。

現場の声(レスピケアナース)
大切にしているのは、こちらが利用者さんの感情に言葉を添えること。そして、相手との心理的な距離感が今どのくらいなのかを、その都度測るようにしています。


第3原則:統制された情緒的関与

援助者が自分の感情を自覚し、巻き込まれず・突き放さず、目的に沿ってコントロールしながら関わる原則です。 一人で訪問する在宅では、特にセルフチェックが欠かせません。

在宅現場のNG例

  • ご家族の強い言葉に感情的に言い返してしまう。
  • 利用者に過度に同情し、ケアの範囲を超えた約束をしてしまう。
  • 逆に、感情を閉ざして事務的に作業だけこなす。

明日から使える声かけ・行動Tips

  • 訪問後に「自分は今どんな気持ちになったか」を一行メモにして客観視する。
  • 揺さぶられたと感じたら、その場で結論を出さず「事業所に確認してご連絡します」と一度持ち帰る。
  • 一人で抱えないために、訪問間で相談できる連絡体制を使う(次章の自社実践ブロック参照)。

第4原則:受容

利用者を、価値観や生活スタイルも含めて「あるがまま」に受け止める原則です。 受容は「すべてに賛成すること」ではなく、相手の現実をまず認めることを指します。

在宅現場のNG例

  • 散らかった居室を見て「もっと片付けないと」と本人の暮らし方を否定する。
  • 服薬や食事のこだわりを「わがまま」と決めつける。
  • 自分の家庭の常識を、訪問先の「正解」として押し付ける。

明日から使える声かけ・行動Tips

  • 「ご自宅のやり方を教えてください」と、その家のルールを先に尊重する。
  • 変えてほしい点があるときは否定からでなく「こうすると楽かもしれません」と提案の形で伝える。
  • 受け止めたうえで、安全に関わる点(転倒・衛生・服薬)だけは根拠を添えて丁寧に相談する。

私たちが大切にしたいこと(受容をチームで支える)

受容を「個人の心がけ」だけに任せると、判断が人によってぶれます。だからこそ、訪問前に「そのお宅で尊重すべき生活スタイル」をスタッフ間で共有し、訪問後はケア記録に残して次の担当者へつなぐ——担当が変わっても「あるがままに受け止める」姿勢が途切れないチームづくりを、レスピケアナース・ホームヘルプ卵でも大切にしたいと考えています。

現場の声(レスピケアナース)
相手が話している途中で覆いかぶせるように話さず、まずは話しきるのを待つようにしています。たくさん話される方もいれば、言葉が止まらない方もいますが、それでも、一旦は聴ききるという覚悟を持って耳を傾けます。

次の訪問などで時間に制約があるときは、話の区切りで「ここまでは大丈夫です」と時間のことをお伝えし、「時間を理由に切り上げられるのでは」という不安を減らすようにしています。また、自分自身の価値観を把握しておくことで、支援者側の理屈で話を進めてしまわないよう気をつけています。


第5原則:非審判的態度

利用者の言動を「良い・悪い」で裁かず、背景に目を向ける原則です。 責められないと感じられて初めて、人は本音を話せます。

在宅現場のNG例

  • 「どうしてお薬飲まなかったんですか」と問い詰める口調になる。
  • リハビリが進まないことを「やる気がない」と評価する。
  • ご家族の介護のやり方を、本人の前で批判する。

明日から使える声かけ・行動Tips

  • 「飲めなかったのは、何か理由がありましたか?」と原因を一緒に探る問いに変える。
  • うまくいかない事実は記録し、人格や努力の評価とは切り分ける。
  • 「できていること」を先に言葉にしてから、課題を一緒に確認する。

第6原則:自己決定(クライエントの自己決定)

ケアの主役は利用者自身であり、本人が選び・決めることを尊重し支える原則です。 援助者は選択肢を整える役で、決定を肩代わりしません。

在宅現場のNG例

  • 「こうしましょうね」と、本人に確認せず手順を進めてしまう。
  • 良かれと思って、本人が決める前に家族とだけ話を決める。
  • 「危ないからダメ」で終わらせ、本人の希望を検討しない。

明日から使える声かけ・行動Tips

  • 「AとB、どちらがよいですか?」と判断材料をそろえて選んでもらう。
  • リスクがある選択でも、頭ごなしに止めず「こうすれば続けられるかも」と一緒に方法を探す。
  • 決めたことは記録し、次回「この前こう決めましたね」と本人の決定を支える。

第7原則:秘密保持

援助の中で知り得た情報を守る原則です。 在宅では家庭の事情に深く触れるため、信頼の土台そのものになります。

在宅現場のNG例

  • 別のお宅で聞いた話を、世間話のつもりで他の利用者に話す。
  • 自宅前や共用部、SNSで利用者の話題を出す。
  • 多職種連携の名目で、目的を超えた情報まで共有する。

明日から使える声かけ・行動Tips

  • 移動中・自宅前・エレベーターなど「聞かれる場所」では利用者の話をしない。
  • 多職種で共有する情報は「ケアに必要な範囲」に絞る。
  • 記録端末・書類の取り扱いルールを訪問のたびに確認する。

新人教育・OJTでの7原則の使い方(同業者向け)

7原則は研修で一度読んで終わりにすると、現場で思い出されません。原則を現場で機能させるエンジンになるのが、援助者自身の「自己覚知(自分の感情・価値観・クセを客観的に把握すること)」です。新人教育や日々の振り返りに7原則を活かすなら、例えば次のような工夫が考えられます。

  • 同行訪問の振り返りに7原則を使う:訪問後に「今日のあの場面はどの原則だった?」と1つ選んで言語化してもらう。抽象論ではなく具体場面とひも付けるのが定着のコツです。
  • NG例を共有財産にする:失敗を責めるのではなく、第5原則(非審判的態度)を教育側が体現し、「次にどう声をかけるか」をチームのTips集に貯めていく。
  • 記録と原則をつなぐ:ケア記録を書くときに「これは個別化の情報」「これは自己決定の経緯」と原則の言葉で意識づけすると、記録の質と援助関係を同時に育てられます。
  • 振り返りメモを習慣にする:訪問後に「今日どの原則でズレたか」を一行記録する(例:「時間に追われ、Aさんの選択を待たずに決めてしまった=自己決定の侵害」)。自分の関わりのクセが見え、次の訪問の指針になります。
  • 困難事例はスーパービジョンで点検する:倫理的に迷う場面(自己決定と安全の対立、秘密保持と多職種共有の線引きなど)は一人で抱えず、先輩・管理者に事例相談して主観の偏りを修正します。
  • 新人が一人で抱えない仕組み:第3原則(統制された情緒的関与)は精神論では守れません。相談できる連絡体制と振り返りの場をセットで用意することが効果的です。

よくある質問(FAQ)

バイスティックの7原則とは何ですか?

対人援助において援助者と利用者の信頼関係(援助関係)を築くための7つの行動原則です。アメリカの社会福祉学者F.P.バイステックが著書『ケースワークの原則』で示し、日本では介護・看護・福祉の基本姿勢として広く学ばれています。

バイスティックの7原則の覚え方はありますか?

「個別化/意図的な感情表出/統制された情緒的関与/受容/非審判的態度/自己決定/秘密保持」の順で覚えるのが一般的です。頭文字をつなげた語呂合わせ「こいとじひじひ(恋とは慈悲慈悲)」などもよく使われます(覚え方の一例で、媒体により対応字に揺れがあります)。前半3つは「感情に関わる関わり方」、中盤の受容・非審判は「受け止める姿勢」、後半は「主体性を守る原則」と意味のまとまりで捉えると思い出しやすくなります。

訪問介護・訪問看護で7原則はどう役立ちますか?

在宅は「生活の場」に援助者が入るため、信頼関係がケアの前提になります。7原則は、声かけの一つひとつ・記録の書き方・チームでの引き継ぎに具体化でき、担当者が変わっても関わりの質を保つ指針になります。本記事では原則ごとにNG例とTipsの形で在宅向けに整理しています。

「受容」と「非審判的態度」はどう違いますか?

受容は相手を「あるがまま」に受け止める姿勢、非審判的態度はその言動を「良い・悪い」で裁かない姿勢です。受容は「賛成すること」ではなく、まず現実を認めること。非審判は評価を保留し背景に目を向けること。重なりつつも、受容が土台、非審判がその実践面と捉えると整理しやすいです。

「自己決定の原則」が制限される場合はありますか?

自己決定は重要ですが、本人や他者の安全に重大なリスクがある場合などには配慮が必要とされます。その際も「止める」のではなく、リスクを共有しながら本人が選べる方法を一緒に探すことが、原則の趣旨に沿った関わりです。


この原則を体現する職場とは

バイスティックの7原則は、個人の優しさだけでは続きません。受容や非審判的態度を保つには振り返りの場が要り、統制された情緒的関与を守るには一人で抱え込まない体制が要ります。つまり「7原則を体現できるか」は、職場の仕組みに支えられているかどうかにかかっています。

レスピケアナース(訪問看護)・ホームヘルプ卵(訪問介護)でも、訪問前の情報共有・ケア記録での引き継ぎ・相談できる連絡体制づくりを通じて、原則を「個人の心がけ」から「チームの実践」へ近づけていきたいと考えています。

現場の声(レスピケアナース)
勉強会では、どんな支援をしたかという専門的なことだけでなく、そのためにどんな言葉かけをしたかを振り返ります。ヒヤリハットが生じたときも、どう対応したかを俯瞰的に書くことで、第三者を交えて振り返ることができます。自分の行動を振り返るのは難しさを感じることもありますが、しっかり向き合えば成長していけるという実感もあります。

在宅の現場で、利用者さん一人ひとりと丁寧に向き合う働き方に関心のある方へ。レスピケアナース・ホームヘルプ卵では、一緒に働く仲間を募集しています。見学・お問い合わせはお気軽にどうぞ。
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出典・参考資料

  • F.P.バイステック 著/尾崎新・福田俊子・原田和幸 訳『ケースワークの原則[新訳改訂版]──援助関係を形成する技法』誠信書房
  • Felix P. Biestek, “The Casework Relationship”, Loyola University Press, 1957
  • 済生会「ソーシャルインクルージョン事典:バイスティックの7原則」 https://www.socialinclusion.saiseikai.or.jp/encyclopedia/193
  • 厚生労働省「医療法における病院等の広告規制について(医療広告ガイドライン)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kokokukisei/index.html
  • 厚生労働省「医療広告ガイドラインに関するウェブサイト等の事例解説書(第5版・令和7年3月)」 https://www.mhlw.go.jp/content/001439423.pdf

※本記事は対人援助の一般的な考え方を解説するものであり、特定の治療効果・診療内容を保証するものではありません。