2026.08.20
警固断層は実際どこにある?──正しい位置の確かめ方と、わかりやすい参考動画
「警固断層って、結局どこを通っているんですか?」
福岡で在宅のケアに関わっていると、ご家族からこうたずねられることがあります。福岡市の地下に警固(けご)断層帯が走ることは、広く知られています。ただ「実際にどこを通るのか」となると、答えに詰まる方が多いのではないでしょうか。
国の地震調査研究推進本部(地震本部)は、この断層帯の南東部について「30年以内に地震が起きる確率は0.3〜6%」と評価しています。想定される規模はマグニチュード7.2程度。この長期評価が公表されたのは2007年(平成19年)3月です。
パーセントだけを見ると、小さく感じるかもしれません。けれども日本の主な活断層のなかでは高いグループで、区分でいえば最上位のSランク(30年以内に3%以上)に入ります。
記憶に新しい2005年の福岡県西方沖の地震は、この断層帯の北西部にあたる区間で起きました。つまり、南東部はまだ動いていません。
目次この記事でわかること
1. 「渡辺通り〜日赤通り〜5号線ルート」という認識は、どこまで合っているか
福岡ではこんな言い方をよく耳にします。
「天神から二日市のほうへ、渡辺通り〜日赤通り〜県道31号(通称5号線)をたどるライン。あれが警固断層でしょう」
— 福岡でよく語られる“通説”
方角としては、おおむね合っています。 地震本部は断層帯の位置を「福岡市東区志賀島北西沖の玄界灘から博多湾、同市中央区、同市南区、春日市、大野城市、太宰府市を経て、筑紫野市に至る」としています。県道31号と日赤通りがつくる天神〜筑紫野のルートと、たしかに同じ回廊です。しかも「警固」という断層名は、県道31号の起点である警固交差点の地名でもあります。「=同じ線」と受け取られても、無理はありません。
しかし、厳密には違います。 理由は2つです。
①公的資料に、道路との対比は一切書かれていない。 地震本部の評価にも、国土地理院の活断層図の解説書にも、渡辺通り・日赤通り・県道31号といった道路名は出てきません。地図を重ねると並走して見える——言えるのは、そこまでです。
②そもそも「線」ではなく、線を引ける精度でもない。
国土地理院は活断層図の「利用の手引」で、活断層線の位置は「拡大しても2万5千分の1の精度を越えることはありません」とはっきり断っています。
— 国土地理院「1:25,000活断層図(都市圏活断層図)利用の手引」
図の上の1mmが、実際の約25mにあたる縮尺です。
凡例を見ると、「位置やや不明確」「活撓曲(地層がたわむ変形)」「伏在部(新しい地層に覆われ、地表に変位が現れない区間)」といった区分が並びます。断層は1本の線というより、幅を持った帯として現れる。そう考えたほうが、実態に近いようです。
「5号線ルート」という理解は、方角をつかむ入口としては十分に役立ちます。ただ、「自宅があのライン上かどうか」を判断する道具にはなりません。ここは分けて考えたいところです。
2. 地形として見るのが、いちばん腑に落ちる ─ 地理ライダーさんの2本
では、どうすれば実感としてつかめるのか。おすすめは、地形として見るという方法です。
活断層図は正確です。ただ、読み解くには慣れが要ります。そこで思い出したいのが、活断層という言葉そのものの意味です。国土地理院の定義では、繰り返し動いてきた跡が地形に現れ、その明瞭な証拠から位置を特定できるものを活断層と呼びます。裏を返せば、断層は土地の起伏として残っているということです。
実際、国土地理院の解説書には、警固断層帯の地形として「低断層崖」「撓曲」という言葉が並びます。南東部の動き方は左横ずれが主体で、南西側が隆起する縦ずれ成分も伴います。だから、土地に高低差が生まれるのですね。
坂や崖、ちょっとした段差。見慣れた風景のなかに、断層の跡が残っている場所があります。反対に、伏在部のように地表からは見えなくなっている区間もあります。見える場所と、見えない場所がある。これは地図の線を眺めているだけでは、なかなか腑に落ちません。
その点で参考になるのが、YouTubeチャンネル「地理ライダー」さんの2本です。いずれも警固断層を扱い、現地をたどりながら地形を確認していく内容です。
動画①:福岡平野を、天神側から南へたどる
►「福岡・警固断層|福岡平野には谷が寝ている? 自転車と電車で見に行こう」https://www.youtube.com/watch?v=n0im3_Ku50k
自転車と電車で見に行く、というタイトルどおりの構成です。自転車くらいの速さで動くと、わずかな上り下りが体で分かります。地図の上では平らに見える福岡平野が、実はどういう形をしているのか。「平野=平ら」という思い込みが、少し揺さぶられるかもしれません。
動画②:南東端の、春日から筑紫野へ
►「福岡・警固断層(南東端編)|春日から筑紫野の 住宅街の崖と温泉」https://www.youtube.com/watch?v=4ZMs55G3auU
こちらの舞台は春日市から筑紫野市、断層帯南東部の端にあたるエリアです。地震本部が挙げる通過自治体にも、春日市・大野城市・太宰府市・筑紫野市が並びます。タイトルの「住宅街の崖」という言葉が、なんだか印象に残ります。断層がつくる地形は特別な場所にあるのではなく、日常の風景のなかにあるのかもしれません。「温泉」がなぜ出てくるのかは、ぜひ動画でお確かめください。
※チャンネル名は「地理ライダー」です。「地図ライダー」と混同されやすいので、検索の際はご注意ください。
大切なのは、動画を見て「うちは大丈夫」「うちは危ない」と結論を出すことではありません。断層とは地形であり、土地の記憶でもある。その感覚を持ったうえで、次の公的な地図に戻ってくる。この順番がいちばん、理解が深まると思います。
3. より正確に知りたい方へ:国土地理院の活断層図
いちばん信頼できる一次資料は、国土地理院の1:25,000都市圏活断層図「警固断層帯とその周辺」です(技術資料D1-No.723、2014年(平成26年)11月発行)。解説書はPDFで公開されていて、地理院地図(https://maps.gsi.go.jp/ )に重ねて見ることもできます。
※メニュー名や構成は更新されることがあります。最新の操作方法は国土地理院のページでご確認ください。
コツは、線そのものを追わないこと。「線から何メートル離れているか」ではなく、「自分の生活圏がこの帯のどのあたりにあるか」。それがつかめれば十分です。
4. 地図の話を、暮らしの備えにつなげる
ここまで位置の話をしてきましたが、本当に大事なのは「断層がどこにあるか」ではなく「あなたのお住まいがどうか」です。
福岡市総合ハザードマップ(https://webmap.city.fukuoka.lg.jp/bousai/ )を開いて、ご自宅の住所を入れてみてください。
揺れやすさと、最寄りの避難場所。この2つを見るだけでも、備えの解像度はぐっと変わります。春日市・大野城市・那珂川市など、近隣の自治体にもハザードマップが用意されています。
在宅療養では、電気が最大のライフライン
ここからが、私たちが最もお伝えしたいところです。在宅療養における最大のライフラインは電気です。人工呼吸器、在宅酸素(酸素濃縮器)、吸引器——いずれも電気で動きます。痰の吸引は、数時間の停電でも待てません。
では、停電に何を備えればよいのでしょうか。福岡県が、こんな呼びかけをしています(「在宅で人工呼吸器を御使用の方及びその御家族等の方へ」より)。
福岡県が呼びかけている、停電への備え
- ✓ 外部バッテリーは複数台用意し、購入年月日を貼って定期的に新しいものへ交換する
- ✓ 蘇生バッグを備える(人工呼吸器が使えなくなったとき、呼吸の確保に最も役立つもの)
- ✓ 吸引器は充電式(ポータブル型)・足踏み式・手動式のいずれかを準備する
- ✓ 緊急避難的に入院できる病院について、あらかじめ主治医と相談しておく
そのうえで、ご家庭で今日できることを2つ。
ひとつは、「うちの機器メモ」を1枚つくること。 機器の名称と型番、電源の種類、内部バッテリーの持続時間、供給業者の災害時連絡先。冷蔵庫の扉など、ご家族の誰もが見る場所に貼っておきます。停電のさなかに探すものではありませんから。
もうひとつは、ご家族と「停電したらどうするか」を5分だけ話すこと。 非常持出袋を用意するより先に、まずはこれです。
機器も、ご本人の状態も、お住まいの環境も、ご家庭ごとに違います。何をどれだけ備えればよいかは、訪問看護・訪問介護として一緒に考えられます。 どうぞ、いつものご訪問の際にお声かけください。
出典・参考資料
断層・地震
- 地震調査研究推進本部「警固断層帯」 https://www.jishin.go.jp/regional_seismicity/rs_katsudanso/f108_kego/
- 同「警固断層帯の長期評価について」(本文PDF) https://www.jishin.go.jp/main/chousa/katsudansou_pdf/108_kego.pdf
- 同「福岡県の地震活動の特徴」 https://www.jishin.go.jp/regional_seismicity/rs_kyushu-okinawa/p40_fukuoka/
- 同「主要活断層帯の長期評価(ランク図)」 https://www.jishin.go.jp/main/img/hyoka_katsudanso.pdf
- 福岡管区気象台「2005年3月20日の福岡県西方沖の地震」 https://www.jma-net.go.jp/fukuoka/chosa/jikazan_saigai/20050320.html
断層の位置・地図
- 国土地理院「活断層図(都市圏活断層図)について」 https://www.gsi.go.jp/bousaichiri/active_fault.html
- 国土地理院 技術資料D1-No.723「1:25,000都市圏活断層図 警固断層帯とその周辺 解説書」(平成26年11月) https://www.gsi.go.jp/common/000097083.pdf
- 国土地理院「1:25,000活断層図(都市圏活断層図)利用の手引」 https://www.gsi.go.jp/common/000153506.pdf
- 地理院地図 https://maps.gsi.go.jp/
ハザードマップ・在宅療養の備え
- 福岡市総合ハザードマップ(地震) https://webmap.city.fukuoka.lg.jp/bousai/e_basic.html
- 福岡県「在宅で人工呼吸器を御使用の方及びその御家族等の方へ(停電への備え)」 https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/zaitaku-teiden-sonae.html
参考動画
- 地理ライダー「福岡・警固断層|福岡平野には谷が寝ている? 自転車と電車で見に行こう」 https://www.youtube.com/watch?v=n0im3_Ku50k
- 地理ライダー「福岡・警固断層(南東端編)|春日から筑紫野の 住宅街の崖と温泉」 https://www.youtube.com/watch?v=4ZMs55G3auU
※本記事の各記述は、上記公的資料の2026年8月19日時点の公開内容に基づいています。制度や公表値は更新されることがありますので、実際のご判断の際は各機関の最新情報をご確認ください。