薬剤不足
ここ最近になって、ようやく薬剤が市場で大変に不足しているという実態が報じられるようになった。
現在では咳止め薬をはじめ、薬剤不足が顕著だ。
今までは風邪をひいたと感じて受診しては大量に手に入っていた薬は、現在では手に入りづらく、厚労省も手持ちの残薬を使う等して欲しいと言い出す始末である。
薬剤不足事態は既に今年の初めには顕著に出始めていたが、その兆候は既に2021年に表れていたことを覚えている。
薬剤不足の背景は失政と状況変化の二十三重苦による
薬剤が不足になった原因は大きく2つある。まずは、後発薬を出していた複数の製薬会社で品質の不正が発覚し、操業停止に追い込まれた点だ。ここに加えてコロナ禍を経て、急激に日本人が衛生面強化の反動により免疫力低下で様々な菌・ウイルスに感染しやすくなってしまった。
ここだけ聞くと、不正を起こした企業に対して何故コンプライアンスを徹底しなかったのかと糾弾の目がいくであろう。
しかし、複数の製薬会社が同様に不正を働いてしまったという点は見逃してはならない。ここには政策上の結果として起こったと言わざるを得ない点がある。
社会保障費を下げるために薬価を下げることに注力した結果がもたらしたもの
高齢者が増え、医療が発展していく中で、社会保障費が増えてきているというのは誰もがご存じのことであろう。
しかし、人口は減少に向かい働き世代も減っている。可能な限り社会保障費は下げていく方向にもっていかなければ国の財政が保たないといわれる。その結果、薬価に着目しジェネリックへの移行をはじめ薬価を下げる努力が重ねられてきた。
まして医療の発展による新薬の登場は、膨大な研究費の回収のためにも薬価は高くなる傾向にある。全体的に薬価を下げるようにしていった結果、現在では1錠あたり1円もしないような値段となってきた。
結果として、薬を作ろうにも儲からない。研究しようにも金がないという状態に陥り、不正でも働かなければ立ち行かないとなって、コンプライアンスが崩れたという背景がある。
薬剤の大切さを今一度考えよう
もちろん、だからといって不正が許されることは当然ない。しかしながら、必要な収益や設備投資が出来るようにしていかなければ、たとえ不正がなかったとしても、人財も研究設備も揃わなければ、世界に後れを取ることは自明であると言わざるを得ない。実際に現在の日本の弱点はここにあるともいわれている。
社会保障費は確かに膨大であり、抑制について検討するということは必要なのかもしれないが、一方でニーズがあるからこそ多くなってきたという点も忘れてはならない。
過度に抑制することは経済を下押しするどころが、国民の幸福度の観点からも、高度な政策技術やビジョンが求められるのではないだろうか。社会保障費の中には、一部の国民の人件費はもちろん、今後の研究や質の向上のための投資となる部分があることも忘れてはならない。
結びに、思い起こせば薬は本来はそんなに簡単に手に入るものではないはずだ。戦後まもなくでもそうだったはずだが、現在はとても簡単に手に入るようになった。これ自体はとても良いことなのだが、一方で安易に邸はいるということは、重要性が薄れてしまうリスクも孕んでいる。
しかし、薬を乱用すれば薬剤耐性菌が出てくるし、間違った使い方をしてしまえば副作用をはじめ容易に心身に悪影響を及ぼしうる。
災害時には定期薬が不足していることから、BCP(業務継続計画)では、主治医に予め1週間分多く薬を処方してもらうようにした方がよいといわれている。しかし、現状ではそれも儘ならないはずだ。今一度、これを機に薬剤とは何か、自分にどういった点で必要なのかということを一人ひとりが見つめ直す時が来たのかもしれない。