キネステティクスで“動き”を学ぶ。自分の体のこと、どれだけ知っていますか?
介護や看護の現場で、よかれと思ってしている介助が、もしかすると相の“動き”を奪ってしまっているかもしれない——。
今回のキネステティクス研修では、そんな大切な気づきと向き合う時間になりました。
講師を務めてくださったのは、長年にわたりこの分野を学び、現場に伝え続けている松村さん。
その思いや学びの背景について、お話を伺いました。
■キネステティクスってなんですか?
──そもそも「キネステティクス」とは、どういう学びなんでしょうか?
松村さん: 簡単に言えば「動きの学問」です。私たちが普段、何気なくしている動作――たとえば、お茶を飲む、座る、立ち上がる――そういった“動き”に注目して分析し、理解する学びです。 ただ教わるのではなく、自分の体を動かして体験する中で、「自分はどんな動きをしているのか」「どこまで動けるのか」を知っていきます。 キネステティクスは、約50年の研究と実践に基づいて体系化された学問なんです。
■まずは“自分の動き”を知ることから
──介助や支援を考える前に、まず自分を知るということなんですね。
松村さん: そうなんです。多くの人は、相手の動きを「支えよう」とします。でもその前に、自分がどんな動きをしているかを意識していないことが多い。
たとえば、以前の研修では「普段通りに動いてみてください」とお願いしました。すると皆さん、自分の体の動きにこんなクセがあったのかと驚いていました。
自分の動きを知らないままだと、介助する相手にどう動いてもらうかの伝え方もわかりませんよね。
■“支える”だけではなく、“引き出す”介助へ
──介助の現場では、「支える」ことが重要視されがちですよね。
松村さん: そうですね。特に命を預かる場面では、どうしても「しっかり支えなきゃ」と力が入ってしまう。
でも、それが“相手の動きを邪魔する”こともあるんです。
たとえば、抱えすぎると、その人が「支えがないと立てない」「座れない」と感じてしまい、自立の妨げになることもあります。
キネステティクスでは、相手が“自分で動けるようにする”介助を大切にします。自然な動きを引き出すことで、介助する側にもされる側にも無理がない状態が生まれるんです。
■赤ちゃんの時のように、動きを再学習する
──「動きの再学習」という考え方もあるんですね。 講師: はい。人間は、赤ちゃんの時に何度も動きを繰り返して、やがて立ったり歩いたりできるようになります。
キネステティクスでは、その発達のプロセスをヒントに、もう一度「動き方」を学び直すという視点も持っています。
■日本での広がりと、出会ったきっかけ
──松村さんがキネステティクスに出会ったきっかけは?
松村さん: 以前、寝たきりの方の褥瘡(じょくそう)をどうにかできないかと悩んでいました。
そのときに出会ったのがキネステティクスです。「これはすごい」と思って、今も現場で伝える活動を続けています。
この学びは、もともと看護師さんが日本でも20〜30年ほど前から海外から日本に紹介してくださったものです。
学校教育とは違ったアプローチなので、「ほかにもっといい方法はないかな」と模索していた人が多くたどり着く場所でもあるんですよ。
■まとめ
介助や看護の現場に立つ私たちにとって、「どう支えるか」だけでなく、「相手の動きをどう引き出すか」という視点はとても大切です。
自分の動きを知ること。 相手の動きを尊重すること。 それが、負担の少ない、自然で快適なケアにつながっていきます。
この研修で得た学びが、日々の関わりにしっかりと息づいていくよう願っています。
実際に体験してわかった「動き」のちから
ブログ担当の種村も、実際に研修を体験させていただきました。
私はもともと関節が少しゆるく、バランスを取るために体に力が入りがちで、腰痛や肩こり、身体のこわばりを感じやすいタイプです。
今回、松村さんのサポートを受けながら、仰向けの状態から立ち上がる動きを実践してみたところ、「えっ、こんなに楽に立てるの?」と驚きました。
普段は「せーのっ」と勢いをつけて動いているのですが、自然と体がスッと起き上がり、無駄な力が抜けていたのです。
まさに、“動きを引き出す”とはこういうことかと、身をもって実感しました。
この研修が実現した背景
今回の研修は、プルーンベリーハウスの神﨑の想いから実現しました。
「若いスタッフにもキネステティクスを学んでもらい、利用される方が体が固まりにくく、動きにくなる方を減らしたい」 ―
そんな願いが込められた、学びの機会となりました。