2026.09.06

地域のリハビリは何が違う?地域ケア会議という現場から

病院で働くリハビリ職の方から、こんな声を聞くことがあります。

「退院した後、あの人はどうしているんだろう」

歩けるようになって帰っていった。でも、その後の暮らしは見えない。家の中でどう動いているのか。外に出ているのか。あのとき練習した動作は、生活の中で使われているのか。

地域のリハビリは、ちょうどそこから始まります。

そして、その視点がいちばんはっきり現れる場所のひとつが、地域ケア会議です。多職種が集まって、一人の暮らしをどう支えるかを考える場。ケアマネジャー、看護師、薬剤師、栄養士、行政、地域の人──そこに、その方を直接担当していないリハビリ職が、助言役として入ります。

この記事では、その場で何が起きているのかを、福岡市南区と春日市の会議に出ている当社取締役(作業療法士)への取材からお伝えします。

まず、名前の話から片づけます。

※2026年9月6日時点の情報です。運用は自治体ごとに違います。

目次

  1. 1その会議、あなたの市では何と呼ばれていますか
  2. 2病院のリハビリと、地域のリハビリ
  3. 3「運動をすすめたい」──その相談の奥にあるもの
  4. 4会議の当日、何が起きているか
  5. 5一人の暮らしから、地域が動く
  6. 6よくある質問
  7. 7まとめ

1その会議、あなたの市では何と呼ばれていますか

「地域支援会議に出てもらえませんか」と言われて検索したけれど、出てこなかった。──それは探し方の問題ではありません。この会議は、自治体によって名前が違うのです。

介護保険法での呼び名は「地域ケア会議」(出典1)。ただ、案内文にその6文字が出てこないことは、めずらしくありません。福岡市の場合、会議は5つの階層に置かれ、階層ごとに名前がついています(出典2・3)。

階層 会議の名前
地域包括ケアシステム推進会議
◯区地域包括ケア推進会議
おおむね中学校区 圏域連携会議
小学校区 高齢者地域支援会議
個別のケース 個別支援会議

(出典3の階層図による)

福岡市南区では令和6年度に、小学校区単位の「高齢者地域支援会議」が12校区で41回、個別の「個別支援会議」が24校区で127回(うち介護予防型個別支援会議25回)、おおむね中学校区単位の「圏域連携会議」が7圏域で7回開かれました(出典4)。

下の階層ほど回数が多く、上にいくほど少なくなる。 この形の意味は、最後の章で見えてきます。

当社の取締役も、この会議に出ています

当社の取締役・中川路匠は作業療法士です。公益社団法人 福岡県作業療法協会からの委嘱を受けて、福岡市南区と春日市の会議に助言者として出席しています。

自治体 出ている会議の名前
福岡市南区 介護予防型個別支援会議
春日市 自立支援型地域ケア会議
ケアマネジャー、行政、地域包括支援センター、理学療法士、作業療法士、薬剤師、栄養士、歯科衛生士などが集まる場(出典5)

※出席しているのは、サービスを売る事業者としてではなく、職能団体から委嘱を受けた作業療法士(助言をする専門職)としてです。

お住まいの地域での正しい名前は、担当の地域包括支援センターに聞くのが確実です。福岡市では「いきいきセンターふくおか」がその窓口で、南区には11センターあります(出典6)。

2病院のリハビリと、地域のリハビリ

同じ資格、同じ知識。それでも、見る角度が変わります。

先にはっきりさせておきたいことがあります。これはどちらが優れているかという話ではありません。 病院のリハビリがあるから、その方は家に帰ってこられます。急性期に集中して機能を取り戻す仕事は、地域では代われません。順番があり、役割があり、そのどちらも要るという話です。

そのうえで、見ている角度は確かに違います。

病院は「機能」から入り、地域は「暮らし」から入る

病院のリハビリは、多くの場合、診断名と機能から始まります。 どこがどう動かないのか。何ができるようになれば退院できるのか。目標は明確で、期間が区切られ、訓練室という整った環境がある。専門職が主導して、計画的に積み上げていく。それが力を発揮する場面です。

地域のリハビリは、その人の暮らしから始まります。

舞台は自宅と、その周りの地域です。訓練室のようには整っていません。玄関に段差があり、廊下が狭く、台所の高さは何十年も変わっていない。仏壇があり、畑があり、いつも座る場所が決まっている。近所づきあいがあり、家族との歴史があります。

目標は「◯◯ができるようになること」ではなく、「その人がどう暮らしたいか」から立ち上がります。そして、退院日のような終わりがありません。

病院のリハビリ

地域のリハビリ

出発点

診断名・機能

その人がどう暮らしたいか

舞台

訓練室(環境が整っている)

自宅と地域(環境はその人のもの)

期間

区切りがある

区切りがない

主導するのは

専門職の計画

本人と家族の生活

「うまくいった」の形

機能が戻る、動作ができる

その人の暮らしが続く

「機能が戻れば暮らせる」とは限りません。

訓練室では歩けたのに、家では玄関から出ない方がいます。手すりをつけたのに、使わない方がいます。逆に、体はそのままでも、椅子の位置が変わっただけ、声のかけ方が変わっただけで、暮らしが動き出すことがあります。

地域のリハビリが向き合っているのは、この「とは限らない」の部分です。

だから、一人では抱えきれない

暮らしから考えると、扱う範囲は一気に広がります。体のことだけでは終わりません。気持ちのこと、道具のこと、家のこと、家族のこと、地域のこと。リハビリ職ひとりの引き出しでは、どうやっても足りません。

だから、多職種で集まります。地域ケア会議は、その「足りなさ」を前提にできている場です。そこにリハビリ職が入る意味は、訓練メニューを出すことではありません。

その人の暮らしを、動作と環境の側から読み解くこと。 それが、地域で期待されている役割です。

3「運動をすすめたい」──その相談の奥にあるもの

会議に持ち込まれる相談で、とても多いのがこれです。

「これ以上、体を弱らせたくない。運動を促す方法を教えてほしい」

病院の発想なら、ここから運動メニューの話になります。何を、どのくらい、どの頻度で。

地域では、そこから入りません。まず、この相談が出てきた背景を見ます。

(以下は当社取締役への取材をもとに、特定の方の事例ではなく、一般的な考え方としてまとめています。個別の判断は、必ずご本人の状況を知っている専門職にご相談ください。)

作業療法士が確かめている、6つのこと

自宅でできることはあるか

暮らしの中に、無理なく取り入れられる動きがあるか

避けたほうがよい動きはないか

状態から見て、してはいけない動作が混じっていないか

気持ちの面

気分の落ち込みなど、活動が減る背景になりうることがないか

▼ ここから下の3つは、病院の訓練室では扱いきれない領域です

運動できる場所への「行き方」

場所があっても、そこまでの足は確保できているか

ご本人の中に目的があるか

「なぜ体を動かすのか」が、その人の生活の中で意味を持っているか

周りの声のかけ方

ご家族や支援者の関わり方が、その人に合った形になっているか

「行き方」は、坂道とバスの本数と、送ってくれる人がいるかどうかの話です。「本人の中に目的があるか」は、その人が何十年、何を大事にして生きてきたかの話です。「周りの声のかけ方」は、家族の歴史の話です。

畑にまた出たい人と、孫の運動会を見に行きたい人と、仏壇に自分で手を合わせたい人では、必要な提案がまるごと変わります。答えは、その人の暮らしの中にしかありません。 そしてこの3つが動かないかぎり、どんなに良い運動メニューを出しても、生活は変わりません。

相談の奥に、別の事情があることがある

取材でいちばん重く語られたのが、次の話でした。

体を弱らせたくない、という相談はとても多いのですが、実はその前提として、気分の落ち込んだ状態がある場合もあります。 そのときに運動をすすめても、かえって逆効果になってしまうことがあります。そうしたときは、必要に応じて、かかりつけ医や専門医療機関へのご相談をおすすめすることや、ご本人への関わり方について助言をすることがあります。

── 当社取締役/作業療法士

「体を弱らせたくない」という相談に、「運動」で答えないことがある。

これが、地域のリハビリの視点です。相談として出てきた言葉と、その人にいま必要なことは、同じとは限らない。活動量が減る背景に気持ちの落ち込みが関わりうることは、介護予防の分野で一般に指摘されている点でもあります。

機能だけを見ていては、ここにたどり着けません。その人の暮らし全体を、多職種で並べて眺めたときに、はじめて見えてくるものがあります。

※これは一般的な留意点の説明で、特定の方の状態を判断したり、特定の受診による効果を示すものではありません。気になる症状があるときは、医療機関にご相談ください。

助言する範囲は、体・心・もの・地域

会議で作業療法士がする助言は、大きく4つに広がります。

  1. 活動のこと……食事・排泄・入浴・移動といった動作や、買い物・調理・金銭管理などの場面から見た助言
  2. 気持ちのこと……意欲や気分の面から見た、関わり方の助言
  3. 道具と家のこと……使っている福祉用具から、暮らしている家そのものの環境まで
  4. 地域のこと……制度のサービスだけでなく、地域にある場や人のつながりをどう使うか

体・心・もの・地域。 リハビリ職の仕事が「体」だけだと思っていた方には、意外に映るかもしれません。地域では、この4つが同じ地平に並びます。

4会議の当日、何が起きているか

会議室に着くのは、始まる15分から30分前。机の上に資料が置かれています。

準備は特にありません。会議が始まる15分〜30分前に、用意されている資料を読み込みます。 その中で質問することをまとめて、質問をしたうえで、それぞれの職種から助言をします。

── 当社取締役/作業療法士

「読む → 質問する → 助言する」。 いきなり助言から入りません。まず読んで、足りないところを見つけて、質問で埋める。3章の「6つの確かめること」は、この質問の時間に埋められていきます。

いつから、そうなったのか。どの場面で起きているのか。ご本人は何と言っているのか。ご家族はどう関わっているのか。──質問が重なるうちに、紙の上の情報が、その人の一日の姿になっていきます。

事例を出す側(担当のケアマネジャーや支援している事業所の方)にとっては、ここが勝負どころです。持っていくと話が進むのは、暮らしの実際、経過、そして困っていること・迷っていること。とくに最後は、遠慮しないほうがいい。うまくいっていないことが具体的に出ているほど、隠れた事情に届きやすくなります。

伝えるときは、評価より先に事実を。「最近ちょっと不安定な感じがします」より、「週3回の訪問のうち、朝の回で◯◯という場面が続いています」。回数・時間帯・期間が入ると、その場の全員が同じ絵を見られます。

※当日の流れは会議によって違います。なお、地域ケア会議は営業の場ではありません。

5一人の暮らしから、地域が動く

ここまで読んで、こう思われたかもしれません。「結局、目の前の一人のための会議でしょう」と。

そこが、この仕組みのいちばん面白いところです。

会議で見つかった気づきは、その一人で終わりません。

似た困りごとが何件も出てくると、「これは個人の問題ではなく、地域の課題ではないか」という話になります。次は「では何が足りないのか」。そして最後には、市の施策への提言にまでつながっていきます。1章で見た階層──個別が127回、小学校区が41回、圏域が7回、区が1回──は、この道筋がそのまま形になったものです。下から上へ、積み上がっていく。

実際に助言をしている当社取締役は、こう話しています。

一つひとつの事例を通して、地域社会にある課題について、政策提言のために意見をすることもあります。 こうした「地域全体で考えていこう」という取組みは、非常にやりがいがあります。

── 当社取締役/作業療法士

そして、会議のやりがいを尋ねたときの答えが、これでした。

事例の隠れた側面が全体に影響を及ぼしていて、それに気づけた時です。

── 当社取締役/作業療法士

気づけた時。

体を弱らせたくないという相談の奥にあったもの。運動できる場所への行き方。その人が何のために体を動かすのか。家族の声のかけ方。──見えていなかったものが見えて、支援の向きが変わる。その瞬間が、地域で働く面白さです。

そしてその気づきは、その人の暮らしを支えるだけでなく、同じことで困っている、まだ会っていない誰かの暮らしにも届いていきます。

病院で「あの人はどうしているんだろう」と思ったことのある方へ。

地域には、その続きがあります。 一人の暮らしに深く入り、その人の生き方から支援を組み立て、そこで見つけたことを地域に返していく。地域ケア会議は、その仕事がいちばんはっきり形になる場所のひとつです。

6よくある質問

Q1

「地域支援会議」と「地域ケア会議」は、違うものですか?

A

介護保険法での呼び名が「地域ケア会議」で、「高齢者地域支援会議」「圏域連携会議」「個別支援会議」「介護予防型個別支援会議」「自立支援型地域ケア会議」などは、自治体が階層や目的ごとに付けている名前です。指しているのは同じ仕組みの一部。福岡市では、小学校区の階層が「高齢者地域支援会議」、おおむね中学校区の階層が「圏域連携会議」とされています(出典3)。

Q2

会議では、どんなことを聞かれますか?

A

助言する側は、まず資料を読み、足りない情報を質問で埋めてから助言に進みます。「いつから」「どの場面で」「どのくらいの頻度で」「ご本人は何と言っているか」「ご家族はどう関わっているか」──このあたりが想定されます。評価よりも、現場で見たことを整理しておくと話が進みます。

Q3

本人や家族も参加できますか?

A

参加する場合もありますが、運営の方針によります。担当のケアマネジャーや地域包括支援センターにご相談ください。「知らないところで自分のことが話されるのでは」とご不安な方もいらっしゃいますが、この会議は支援を考えるために開かれるもので、話された内容の扱いには法律の縛りがかかっています。

7まとめ

  • 会議の名前は自治体ごとに違います。福岡市では、小学校区の階層が「高齢者地域支援会議」、おおむね中学校区が「圏域連携会議」、個別が「個別支援会議」。春日市では「自立支援型地域ケア会議」の名前が計画に書かれています。
  • 病院のリハビリは「機能」から、地域のリハビリは「その人がどう暮らしたいか」から考えます。優劣ではなく、見る角度の違いです。
  • 「運動をすすめたい」という相談でも、運動できる場所への行き方・本人の中の目的・周りの声のかけ方まで見ます。病院の訓練室では扱いきれない領域です。
  • 相談の言葉と、その人にいま必要なことは、同じとは限りません。 そこに気づけるのが、多職種で並べて眺めることの力です。
  • 一つひとつの検討は積み上がり、地域の課題の発見から、市の施策への提言へとつながっていきます。

その人の生き方から支援を組み立て、そこで見つけたことを地域に返していく。地域のリハビリの面白さは、たぶんここにあります。

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出典・参考資料

(いずれも2026年9月6日時点で確認)

  1. e-Gov法令検索「介護保険法(平成9年法律第123号)」第115条の48
    https://laws.e-gov.go.jp/law/409AC0000000123
  2. 福岡市「地域包括ケアの推進」
    https://www.city.fukuoka.lg.jp/fukushi/chiikihoken/health/00/04/4-040201.html
  3. 福岡市「令和7年度 早良区地域包括ケア推進会議」参考資料2(会議の階層図)
    https://www.city.fukuoka.lg.jp/sawaraku/chiikifukushi/shisei/documents/r7shiryo.pdf
  4. 福岡市「令和7年度 南区地域包括ケア推進会議」資料(令和6年度の開催実績)
    https://www.city.fukuoka.lg.jp/minamiku/chiikifukushi/shisei/documents/07kaigisiryou.pdf
  5. 春日市「春日市高齢者福祉計画2024・第9期介護保険事業計画(令和6〜8年度)」
    https://www.city.kasuga.fukuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/014/291/jigyoukeikaku.pdf
  6. 福岡市「『いきいきセンターふくおか』(福岡市地域包括支援センター)」
    https://www.city.fukuoka.lg.jp/fukushi/chiikihoken/health/00/04/4-030101-1_2.html
  7. 公益社団法人 福岡県作業療法協会
    https://www.fuku-ot.org/aboutus/ot-kyoukai/
  8. 株式会社アイランドケア 取締役・中川路匠(作業療法士/公益社団法人 福岡県作業療法協会からの委嘱により福岡市南区・春日市の会議に出席)への取材(2026年9月6日実施)

※内容は2026年9月6日時点のものです。運用は自治体によって異なり、見直されることもあります。最新の取扱いは、お住まいの市町村・地域包括支援センターの公表情報をご確認ください。