2026.07.28

事故が起きたとき——「謝罪」と「共感の表明」

シリーズ「訪問看護の管理者ノート」 第4回

起きた後の誠実さが、信頼を決める

事故は、完全にはゼロにできない。

だからこそ問われるのは、「起きた後」にどう向き合うかです。

どれだけ気をつけていても、事故を完全にゼロにすることはできません。医療的ケアの必要な方の在宅を支える訪問看護では、なおさらです。

だからこそ、問われるのは「起きた後」です。事故が起きたその瞬間から、どう動き、どう向き合うか。その誠実さが、利用者・家族との信頼を左右します。

この記事について

シリーズ「訪問看護の管理者ノート」第4回。前回の「苦情はメッセージ」に続き、今回はさらに難しい局面——事故対応を扱います。とりわけ、近年その大切さが見直されている「謝罪」と「共感の表明」に焦点を当てます。

事故対応は、個人の資質に任せる話ではありません。管理者が方針と仕組みで支えるべき、質の管理の一部です。

目次

  1. 事故は「起きる前」と「起きた後」の両方で考える
  2. 事故発生時の基本——3つの「しない」
  3. 事故対応の流れ
  4. 「謝罪」と「共感の表明」
  5. 事故を起こしたスタッフを、孤立させない
  6. 「反省」ではなく「学び」に変える
  7. まとめ

1. 事故は「起きる前」と「起きた後」の両方で考える

事故対応というと、起きてからの話に思えますが、本当はもっと手前から始まっています。

  • 起きる前(proactive):早い段階でリスクを把握し、事故・紛争・訴訟を予防する
  • 起きた後(拡大防止):発生の予防だけでなく、発生時・発生後までを一連の流れとして考える

「起きないようにする」だけでなく、「起きてしまったときに被害を最小にする」ところまでを、あらかじめ設計しておく。これが安全管理の基本です。

2. 事故発生時の基本——3つの「しない」

事故が起きたとき、まず守るべき原則はとてもシンプルです。

利用者の安全の確保に全力を尽くす

そして、組織としての対応方針として、次の3つを徹底します。

うそをつかない。隠さない。責任転嫁しない。

当たり前に見えて、動揺した現場ではこれが崩れます。「大ごとにしたくない」「自分のミスだと思われたくない」——その気持ちが、隠す・ごまかす・人のせいにする、という行動につながります。それが、事故そのものよりも大きく信頼を損ないます

3. 事故対応の流れ

事故発生後は、次の流れで動きます。

  1. 利用者の安全の確保に全力を尽くす
  2. 説明する、誠実に対応する(謝罪と共感の表明
  3. 報告する、指示・サポートを得る
  4. 記録する
  5. 保全する(現場・機器を残す)
  6. 事実確認を行う
  7. 外部の関係機関への対応を検討する
  8. 再発防止に向けた検討を行う
  9. 組織としての対応方針を決定する

一人で抱え込まず、必ず報告し、指示とサポートを得る。この「3」があるかどうかが、現場のスタッフを守ります。

4. 「謝罪」と「共感の表明」

ここが、この記事のいちばん伝えたいところです。

かつては、「紛争や訴訟で不利になるので、事故が起きても性急に謝罪してはいけない」という風潮がありました。その結果、力を尽くしたのに残念な結果に終わったことへの率直な気持ちを伝えられず、利用者・家族との信頼を失ってしまうことがありました。

近年は、考え方が変わってきています。過失があるかどうか分からない段階でも、まず「共感の表明」——残念に思う気持ちを、素直に伝えることの大切さが強調されています。

「共感の表明」は、法的な過失を認めることとは違います。「力を尽くしましたが、このような結果になり、私たちも大変残念に思っています」——この誠実な一言が、その後の対話の土台になります。謝罪を封じることは、誠実さを封じることでもある。それを、私たちは思い出す必要があります。

5. 事故を起こしたスタッフを、孤立させない

事故が起きたとき、いちばん動揺しているのは、当事者になったスタッフ本人です。ここで管理者がどう関わるかが、その後のチームを決めます。

必要なのは、実務的なサポートと精神的なサポート、そして中長期にわたる支え。何より、「独りではない」と思えることです。

講演では、管理者として「決めている事」が紹介されました。

  • ・叱らない
  • ・すごく困った顔をしない
  • ・大丈夫って顔をする

事故を責めれば、次から報告が上がってこなくなります。隠す文化が生まれ、もっと大きな事故につながる。報告できる空気をつくることが、いちばんの安全対策なのです。

6. 「反省」ではなく「学び」に変える

事故やインシデントを、反省で終わらせてはもったいない。大切なのは、そこから学びを引き出すことです。

インシデント・アクシデントレポートは、リフレクション(振り返り)の視点で書きます。

  • 評価・分析:その状況で何を感じ、考えたか。良かった点・良くなかった点の両面を、行動と感情に分けて捉える
  • 気づき:何に気づき、何を学んだか
  • 行動計画:事業所全体の業務改善点、次に同じ状況にあたったらどうするか

ポイントは、反省だけでは足りないということ。「気をつけます」で終わらせず、仕組みと行動に落とし込む。それが、再発防止と質の向上につながります。

なお、事故には民事・刑事・行政上の責任が伴う場合があります(損害賠償、業務上過失致死傷、指定取消や免許停止など)。だからこそ、記録・保全・事実確認を確実に行い、組織として対応することが欠かせません。

7. まとめ

  • ✅ 事故はゼロにできない。問われるのは「起きた後」の誠実さ
  • ✅ 基本は3つの「しない」——うそをつかない・隠さない・責任転嫁しない
  • ✅ 「共感の表明」は過失を認めることとは違う。まず残念に思う気持ちを素直に伝える
  • ✅ 当事者スタッフを孤立させない。叱らず「独りではない」と伝える
  • ✅ 報告できる空気が、いちばんの安全対策
  • ✅ 事故は「反省」で終わらせず、リフレクションで「学び」に変える

次回予告|シリーズ「訪問看護の管理者ノート」第5回(最終回)

自己犠牲では続かない——「活私利他」という私たちの経営理念

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シリーズ「訪問看護の管理者ノート」(全5回)

  1. 訪問看護の管理者は何をする人?法制度で読み解く6つの役割
  2. 「医学モデル」から「生活モデル」へ——新人訪問看護師が“ゆらぐ”理由
  3. 苦情は「クレーマー」ではなく利用者からのメッセージ
  4. 事故が起きたとき——「謝罪」と「共感の表明」(この記事)
  5. 自己犠牲では続かない——「活私利他」という私たちの経営理念

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レスピケアナース(福岡市南区)は、事故やヒヤリハットを個人の責任で終わらせず、チームで受け止め、学びに変えることを大切にしています。「独りにしない」を大事にする職場です。

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出典・参考資料

  • 山田真理子「訪問看護ステーションの管理者の役割」(株式会社アイランドケア 常務取締役/在宅看護専門看護師)
  • 全国訪問看護事業協会編『事故事例から学ぶ訪問看護の安全対策 第2版』日本看護協会出版会、2013年