2026.07.31
自己犠牲では続かない——「活私利他」という私たちの経営理念
スタッフが元気に働けることが、良いケアの前提
自己犠牲では、続かない。
尽くすことを美徳としすぎると、働く人は摩耗していきます。それでは、良いケアも長くは続きません。
医療・看護・介護の仕事は、しばしば「自己犠牲」という言葉で美しく語られます。自分を後回しにして、患者さんや利用者さんに尽くす——その姿は、たしかに尊いものです。
けれど、私たちはこう考えています。自己犠牲では、続かない。
尽くすことを美徳としすぎると、働く人は肉体的にも精神的にも摩耗していきます。それでは、良いケアも、良い事業所も、長くは続きません。この最終回では、シリーズ全体の土台にある私たちの経営理念——「活私利他」についてお話しします。
この記事について
シリーズ「訪問看護の管理者ノート」もいよいよ最終回。ここまで、管理者の6つの役割、新人が“ゆらぐ”理由、苦情への向き合い方、事故が起きたときの対応を見てきました。
それらすべての根っこにあるのが、「どんな組織でありたいか」という理念です。理念がなければ、役割も対応も、ただの作業になってしまいます。最終回は、レスピケアナースが大切にしている考え方を、そのままお伝えします。
1. 「自己犠牲」を、私たちは目指さない
まず、はっきりさせておきたいことがあります。私たちが目指していないことです。
それは、スタッフの自己犠牲です。
日本では、特に医療・看護・介護に関わることは、自己犠牲の精神で美しく語られることが多い。しかし、これは長続きしない考えである。なぜなら、働く人間が肉体的にも精神的にも摩耗していくという危険性を内包しているからだ。
同時に、逆方向の「利益一辺倒」も目指しません。売上のために不要な訪問を重ねたり、他のサービスで代替できるものを提供し続けたりはしません(社会資源がない場合は柔軟に対応します)。利用者の自立を妨げる「親切」や、意向を汲まない「余計なお世話」も、私たちのケアではありません。
自己犠牲でもなく、利益一辺倒でもない。その第三の道が、「活私利他」です。
2. 「活私利他」とは
「活私利他(かっしりた)」は、ホスピタリティ研究者・吉原敬典氏の言葉です。
他者(利用者・家族・同僚・上司)のために、自分を最大限に活かす。そのことによって、お互いが心を動かされる。それを、仕事の喜びだと感じる。
ポイントは、「滅私」ではなく「活私」だということ。自分を殺して尽くすのではなく、自分を活かしながら、他者に貢献する。そして、その貢献を通じてお互いの心が動く——これを、私たちは「相互歓喜」と呼んでいます。
利用者さんの状態が良くなる。ご家族から感謝される。チームで喜び合う。想像を超えて、お互いの心が動かされる。その瞬間こそが、この仕事の醍醐味です。
3. スタッフが元気に働けることが、良いケアの前提
だから、私たちの経営理念の最初に来るのは、シンプルな一文です。
- ✅ スタッフが元気で働くこと
- ✅ 利用者や仲間と相互歓喜すること
- ✅ スタッフも会社も利用者も家族も、地域社会で持続して生活していくこと
「スタッフが元気で働くこと」を、いちばん最初に置いています。冷たく聞こえるでしょうか。いいえ、逆です。摩耗した人からは、良いケアは生まれないからです。スタッフが元気であることは、利用者さんのためでもあるのです。
給料はもちろん大切です。でも、それ以上に「良い看護が実践できた」という実感が得られれば、人は辞めません。だから私たちは、時間内に事例検討会や勉強会を行い、ワークライフバランスを守るために大規模化を選び、一人に過度な負担が偏らないチームで利用者さんを看ています。
4. 訪問看護は、面白い
最後に、あらためて伝えたいことがあります。訪問看護は、面白い仕事だということです。
- いろいろな創意工夫ができる
- 全世代・さまざまな症例を経験できる
- 一人の利用者さんに長く関わり、人生のいろいろな場面に立ち会える
- チームで行うケアで、利用者さんの状態が良くなり、相互歓喜できる
病気や障害は、マイナスばかりではありません。その人が、病気や障害と共に、その後の人生を穏やかに、新しい価値を見つけながら生きていく——それを最期まで支えるのが、私たちの理念です。「穏やか」とは、いつもポジティブという意味ではありません。揺れるのが人の気持ち。その揺れに寄り添い続けることが、在宅の看護です。
5. シリーズを終えて——管理は、理念を形にする仕事
全5回を通じて、管理者の役割を見てきました。最後に、シリーズ全体を一本の線でつなぎます。
- 第1回:管理者の役割は法制度に書かれている(土台としての「知識」)
- 第2回:医学モデルから生活モデルへ(ケアの「視点」)
- 第3回:苦情は利用者からのメッセージ(利用者との「対話」)
- 第4回:事故が起きたときの謝罪と共感(誠実さという「姿勢」)
- 第5回:活私利他(すべてを貫く「理念」)
知識も、視点も、対話も、姿勢も、最後は「どんな組織でありたいか」という理念に支えられています。管理とは、理念を日々の運営という形にしていく仕事です。
自己犠牲ではなく、活私利他で。スタッフが元気に、利用者さんと相互歓喜しながら、地域で長く続いていく。そんな訪問看護を、これからもつくっていきます。
6. まとめ
- ✅ 医療・看護・介護は「自己犠牲」で語られがちだが、それでは続かない
- ✅ 私たちの理念は「活私利他」——自分を活かしながら他者に貢献し、お互いの心が動く(相互歓喜)
- ✅ 自己犠牲でも利益一辺倒でもない、第三の道
- ✅ 「スタッフが元気で働くこと」が、良いケアの前提
- ✅ 訪問看護は創意工夫と相互歓喜のある、面白い仕事
- ✅ 管理とは、理念を日々の運営という形にしていく仕事
全5回、お読みいただきありがとうございました。
シリーズ「訪問看護の管理者ノート」(全5回)
- 訪問看護の管理者は何をする人?法制度で読み解く6つの役割
- 「医学モデル」から「生活モデル」へ——新人訪問看護師が“ゆらぐ”理由
- 苦情は「クレーマー」ではなく利用者からのメッセージ
- 事故が起きたとき——「謝罪」と「共感の表明」
- 自己犠牲では続かない——「活私利他」という私たちの経営理念(この記事)
「活私利他」に共感してくださる方へ
レスピケアナース(福岡市南区)は、自己犠牲ではなく、スタッフが元気に働きながら良いケアを続けられる事業所を目指しています。医療依存度の高い方の在宅療養を、チームで支えています。
この理念に共感してくださる方、まずは見学からお気軽にどうぞ。ご利用のご相談もお待ちしています。
出典・参考資料
- 山田真理子「訪問看護ステーションの管理者の役割」(株式会社アイランドケア 常務取締役/在宅看護専門看護師)
- 吉原敬典『ホスピタリティマネジメント 活私利他の理論と事例研究』